不貞行為の「自白」は慰謝料請求の証拠になる?
慰謝料を請求したい配偶者が不貞を自白した。
自白はあるけれどそれ以外の証拠はない。
不貞相手の名前や住所・電話番号も白状したけど,自白だけで慰謝料請求できるの?
配偶者の不貞を疑い,意を決して問い詰めてみたところ,不貞行為の事実だけでなく,不貞相手の名前や住所・電話番号等も全て白状した,という相談を受けることがあります。このような状況にある方は,自白だけでも慰謝料を請求できるのか,ということを気にすることが多いようです。
自白は不貞行為の証拠になるのでしょうか。証拠になるとして,自白以外の証拠が全くない状況で慰謝料を請求することはできるのでしょうか。自白をした配偶者本人に慰謝料を請求する場合と,不貞相手に慰謝料を請求する場合で何か違いがあるのかも含め,お話ししていきます。
Contents
1.不貞行為の「自白」とは…?
⑴慰謝料請求の根拠となり得る自白とは
「自白」と一言に言っても,何をどこまで認めているかによって,「不貞行為の自白」と言えるかどうかが違ってきます。
婚姻関係にある夫婦は,お互いに貞操義務を負っています。そのため,慰謝料請求の根拠となり得る「不貞行為」とは,この貞操義務に違反した行為を指します。つまり,配偶者以外の者と肉体関係をもつことが,慰謝料請求の根拠となり得る「不貞行為」に該当するのです。
ですから,配偶者が「Aさんと食事に行った」「Aさんとデートをした」と自白をしても,それは「不貞慰謝料請求の根拠」になり得る自白とは言えないのです。
具体的に不貞行為の自白と認められるためには,「Aさんと肉体関係を持った」とか,「Aさんとラブホテルに行った」等,肉体関係の存在が分かるような内容が含まれていることが必要です。また,「マッチングアプリで知り合った人と肉体関係を持った」等,不貞行為を行った相手を特定してない場合であっても,不貞行為の自白と言えます。
⑵どこまでの「自白」を引き出すべき?
既にお話ししたように,「配偶者以外の人と肉体関係を持った」という発言だけでも,不貞行為の自白になり得ます。しかし,不貞行為を行ったのであれば,配偶者だけでなく不貞相手にも責任を取ってほしいものです。また,不貞行為の期間等,慰謝料の額に影響する要素は様々です。
そこで,配偶者が自白してくれるのであれば,
不貞相手の氏名等の情報(住所や電話番号も)
その不貞相手は,配偶者が既婚者であることを知っていたかどうか
不貞相手の家族構成
不貞行為の期間
等も聞いておくと良いでしょう。
2.「自白」は証拠になり得る?
では,この「自白」は不貞慰謝料を請求するための証拠になるのでしょうか。
結論から言えば,自白も証拠の1つです。「証拠」とは,不貞行為があったことを証明するものですから,「不貞行為を行った」という発言も,証拠になり得るのです。
ですが,「配偶者が『不貞行為をした』と言っていた」というだけでは,証拠として不十分です。
仮に配偶者やその不貞相手に実際に慰謝料請求する場面になったとしましょう。その段階でも,配偶者が「不貞行為はあった」と言ってくれるでしょうか。言ってくれればいいですが,いざ重要な局面になると,「不貞なんてしていない」と白を切るかもしれません。実際訴訟になった時も,法廷で「不貞行為をしました」と証言してくれる保証はないのです。
そこで,自白を明確な証拠としても超すために,「念書」という形で残しておくと良いでしょう。
たとえば,配偶者に
「Aさんと,●年頃から肉体関係を持っていました。Aさんは私が既婚者であることを知っています」
と書面に記載してもらい,そこに署名をしてもらうという方法が考えられます。また,自白しているところを録音しておくというのも1つです。
このように,書面や録音が残っていれば,目に見える形で「自白」を残しておくことができるので,証拠としての価値はあがります。
3.「自白」だけでも慰謝料請求は可能?
自白が書面や録音等の目に見える形で残っていたとして,この「自白」だけで慰謝料の請求はできるのでしょうか。訴訟まで進んでしまった場合に,この自白だけで不貞行為の存在を裁判所が認めてくれるか否かが重要なポイントになります。
この判断は,「誰が自白しているのか」「誰に慰謝料を請求するのか」によっても変わってきますので,それぞれの場合について検討していきましょう。
⑴不貞相手に慰謝料を請求したい
①配偶者の自白しかない場合
配偶者の自白が「確かに不貞をしました」等,そもそも不貞相手が誰か明かされていない内容であれば,不貞相手に慰謝料を請求することは難しいでしょう。「もしかしてこの人かも…」とおよその勘で思っても,その人であるという証拠が存在しない以上,慰謝料を請求する明確な根拠はありませんから,慰謝料の請求はできません。
一方,「Aさんと不貞をした」と配偶者が自白しているのであれば,Aさんへ慰謝料を請求することは可能でしょう。しかし,任意の交渉段階でAさんが不貞を認めてくれれば良いのですが,「不貞はしていない」と否定された場合,話は複雑です。
不貞相手が不貞を認めず任意に慰謝料を払わない以上,訴訟を提起することになるのですが,証拠が配偶者の自白だけの場合,裁判所が不貞行為の存在を認めてくれない可能性も存在します。
いくら念書や録音があるとは言え,自白はあくまで自白した人の主観による証拠です。自白だけで不貞が認められてしまうと,極端な話,自白する人の意思次第で,不貞行為の事実が作出されてしまうリスクがあります。不貞行為の事実が全くなくても,誰かを陥れることが可能になってしまうのです。そのため,写真やメールのやり取り等,客観的な証拠と比べると,どうしても証拠としての価値は弱まってしまいます。
②不貞相手自身が自白している場合
慰謝料を請求されている不貞相手自身が不貞行為の事実を認めているのですから,慰謝料請求は問題なくできるでしょう。
交渉段階で不貞行為を認めていても,慰謝料の金額で折り合いがつかず,訴訟に発展するケースも存在します。この場合,交渉段階で不貞行為を認めていた相手方が,訴訟になったとたん不貞行為を否定するという可能性があります。
訴訟の場で不貞相手が不貞を否定している以上,不貞行為の存在を証明しなければいけないのは慰謝料を請求する側です。「交渉の場では不貞行為があったことを認めていたのに」といくら訴訟で主張しても,その事実を証明する証拠がなければ,裁判所は不貞の事実を認めてくれません。ですから,このようなリスクに備え,不貞相手が不貞行為を認めているのであれば,念書等,きちんと目に見える形で証拠として残しておくべきでしょう。
中には,念書があっても「あの時は脅されたのでやむなく書いた」等と,白を切り通そうとする人もいます。そのような言い訳を許さないためにも,念書を作成してもらっている状況を録音しておく等の対処も必要かもしれません。
不貞相手自身が過去に自白していたのであれば,慰謝料請求が認められる可能性は十分にあります。配偶者の自白しかない場合と何が違うの?と思う方もいらっしゃるかもしれません。ですが,慰謝料請求をされた時点で不貞行為を認めているのですから,支払う必要のない慰謝料を負担してまで嘘の自白をするとは考えにくいでしょう。そのため,証拠としての価値は,配偶者が自白している場合より高いと言えるのです。
⑵配偶者に慰謝料を請求したい
配偶者自身が不貞行為を認めているのであれば,不貞相手が誰か分からない場合であっても,慰謝料請求はできるでしょう。誰と不貞行為をしたとしても,配偶者自身の不貞によって婚姻関係を破綻させたことに違いはないのですから,慰謝料請求は認められるのです。
仮に訴訟や離婚調停等にまで発展し,配偶者が不貞行為の存在を否認し始めたという場合でも,「不貞相手への慰謝料請求で不貞相手自身が不貞を自白した場合」でお話ししたように,念書や録音等が残っていれば,慰謝料請求が認められる可能性は残されています。
なお,あまり考えにくいですが,「不貞相手が不貞を認めて配偶者が否定している」というケースもあるかもしれません。不貞相手に慰謝料を請求して支払ってもらった後,配偶者に問い詰めた不貞行為の事実を否定された,という場合が考えられるかもしれません。
実際不貞相手が慰謝料を支払っている場合,不貞相手が自ら不利益を被ってまで配偶者を陥れるとは考えにくいでしょうから,慰謝料請求が認められる可能性はあるのではないでしょうか。不貞相手が不貞を認めて慰謝料を支払った際に作成した合意書等は,配偶者に対する慰謝料請求の場面では,客観的証拠に近い存在と言えそうです。
4.慰謝料請求を確実に行うためには
ここまでお話ししてきたように,自白は不貞行為の証拠にはなりますが,証拠が「自白だけ」の場合には,その後の訴訟等を考えると,少し弱い証拠と言わざるを得ません。そのため,自白以外の「客観的」な証拠を集めることが大切なのです。
具体的には,肉体関係の存在が分かるようなメール・メッセージのやり取りや,ホテルへの出入りが分かる写真等です。ですから,配偶者が不貞行為を自白しているようであれば,メッセージのやり取り等を確認させてもらうといいかもしれません。
不貞を疑い,自白が取れると思って配偶者を問い詰めたらとぼけられた,という話もよく聞きます。不貞を疑われていると気付けば,不貞相手の連絡先を削除したり,メッセージのやり取り等を全て消してしまったりと,その後の証拠収集が困難になってしまう可能性があります。証拠がなければ,慰謝料請求は難しくなるかもしれません。不貞を疑った場合は,自白を迫る前に何かしらの客観的な証拠を入手しておくことが,安全だと言えるでしょう。
どのような証拠を集めていいか分からない,今の状況で慰謝料を請求できるのか分からない,等のご不安をお持ちであれば,一度弁護士にご相談ください。
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