【浮気慰謝料】ホテルに行ったが何もしていない、言い訳は通るのか?
慰謝料を請求された【浮気慰謝料】ホテルに行ったが何もしていない、言い訳は通るのか?
浮気・不倫の紛争では、ホテルまで一緒に行ったが、中では何もしていない。
誰にも聞かれたくない相談事があって相談を応じていただけなど言い訳がなされることもあります。
それ本当なの?といった疑いをより濃くする場面もあれば、ここまで謝ってくれるのだから信じてあげてもといった悩みがでてくることもあるでしょう。
この記事では、ホテルに行ったが何もしていないと言い訳が裁判所において通用するのかについて解説させていただきます。
また、後半では、ホテルに複数回にわたり言っていたものの、不貞行為の立証まではなされていないと判断された、福岡地方裁判所令和2年12月23日判決について紹介しています。
Contents
1 ホテルに行っている場合には、不貞行為が行われたと判断される可能性が高い
一般用語としての浮気、不倫といった言葉の意味は多様で、どこまでのラインが許せるのかといった浮気のボーダーラインも人によってさまざまではあります。
もっとも、裁判所など法律上で問題となる浮気としては、不貞行為という不法行為がなされた、不法行為に基づく損害賠償請求権が認められるかどうかが問題となってきます。
民法709条には、不法行為による損害賠償として、故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負うことが規定されています。
また、民法710条でも、他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条(民法709条)の規定による損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その損害を賠償しなければならないとして、非財産的な損害である精神的損害、慰謝料についても損害に含まれることが示されています。
したがって、法律的には、不法行為に該当する具体的な行為がなされているのかを立証できるのかどうかが大切な点となってきます。
不貞行為とは、配偶者以外の者と肉体関係を結ぶことをいい、配偶者以外の者との肉体関係を結ぶことは離婚原因にも該当する夫婦婚姻生活の平穏を害する不法行為となりますので、故意・過失などの要件該当性を判断され、精神的損害に対する慰謝料を請求することができます。
配偶者と浮気相手がホテルに入ったという客観的証拠が存在する場合に、裁判上で、配偶者以外の者との肉体関係を結んでいたことが立証できるのかが問題となってきます。
確かに、ホテルに入ったという事実のみであると、ホテルのレストランやバーを利用しているに過ぎない、別々の部屋を予約しており一緒には行動していないなど反対仮説が成立することはありえますので、必ずしもすべての事案で肉体関係を持っているとまでは言えないことではあります。
一方で、一定の関係性のある男女がラブホテルや旅館などの同室に泊っている可能性が高い場合には、肉体関係を持つ十分な時間が存在し、不貞行為があったと判断されることが多いでしょう。
したがって、他の証拠判断や経緯なども合わさっての判断ではありますが、ホテルに行っている場合には、不貞行為が行われたと判断される可能性が高いことが多いでしょう。
2 不貞行為の性質:密行性が高く、直接証拠までは存在しないことが多い
不貞行為が配偶者以外の者との肉体関係であることを踏まえると、証拠裁判主義が採用されており、法律上の権利主張を行う側が事実の立証をしなければならないとしても、まさに性交渉を行っている場面を撮影しているなどの事案はそこまで多くはないとは思われます。
(実際には、肉体関係を持っているシーンを撮影している動画がスマートフォンなどに残されているといった事案も存在はしますが、普通はそこまでされる方は少ないでしょう。)
また、何月何日に不貞行為がなされていたのかといったことまで詳細に記録に残していることもなかなか難しい部分があります。
そのため、不貞行為の裁判においては、① 交際に至っていた事実 ② ホテルに入っていた事実 ③ 当事者の会話内容 ④ デートをしている写真 など複数の証拠を合わせることで、一定の期間に不貞行為に至っていた蓋然性が高いといったことを立証していくことが目標となってくるでしょう。
因果関係の立証についての裁判例ではありますが、最高裁昭和50年10月24日判決(ルンバ―ル事件判決)では、訴訟上の因果関係の立証は、1点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることが必要であり、かつそれで足りるものであるといった判断を出しています。
そのため、不貞行為を行ったとの通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持つことができればよく、交際関係にある男女がホテルに入り一定の時間を過ごしたのであれば肉体関係を伴う不貞行為があったと一般人が判断することは可能であろうと考えられます。
3 不貞行為がなかったといえる場合はないのか?
では、ホテルに入ったとしても不貞行為がなかったと主張することはできないのでしょうか。
事案にはよりますが、ホテルに滞在したとして不貞行為の存在が強く推認がなされる場合でも、当事者の間でなされたLINEなどの内容をみて、不貞行為があったまで認定することが疑問が残るとして不貞行為を認めなかった事案も存在します。
福岡地方裁判所令和2年12月23日判決では、既婚男性と独身女性が、多数回、一緒に、宿泊したり、ラブホテルに滞在したりした事実があるにもかかわらず、両者の間でやり取りされたLINEの内容等に鑑みて、両者が不貞行為に及んだ事実は認定できないとされました。
4 福岡地方裁判所令和2年12月23日判決 不貞行為を否定した事案
■ 判例の具体的な認定過程
1 被告と配偶者男性(Z)の出会い等
(ア)Zに関する事情について
・Zは、自分の両親の夫婦生活は悲惨なものであったと考えており、人間関係等において生き辛さを感じていた。
・Zは、平成11年頃から、心理学の講座を受講し、その勉強を開始した。
・Zは、双極性障害という診断を受け、平成19年、反復性うつ病により3か月間入院した。
・原告とZの長男が、平成27年5月頃、ギャンブル依存症に罹患し、平成28年10月頃、C病院に入院した。
・この頃、Zは、3か月間休職して、依存症の勉強を開始し、C病院やギャマノン(ギャンブル依存症の家族の会)が主催するミーティング等に参加し、その中で、分がアダルト・チルドレンかつ共依存症(依存症者に必要とされることに存在価値を見出し、ともに依存を維持している周囲の人間の在り様)であることを自覚し、心理学や精神世界の理論等の勉強に一層傾倒するようになった。
・Zは、AH(アティテューディナル・ヒーリング〔心の姿勢による癒し〕)のファシリテーター(促進者)の資格を有する2人のうちの1人である。
・Zは、将来的には、早期退職して、依存症者等の支援事業を起こし、カウンセラーになりたいと考えているといった配偶者夫が仕事をやめ依存症等の支援事業のカウンセラーを行いたいといった事情を有していたことが認定されています。
(イ)被告(相手方)に関する事情について
・被告は、夫と死別し、3人の子を有し、そのうちの1人が浪費癖を有していた。
・被告は、平成27年12月から、C病院の精神科急性期病棟において、看護師として勤務し、平成28年6月から、主にアルコール依存症等のアディクション(依存症・嗜癖)を担当するようになった。しかし、被告は、上司からアディクションの患者への関わり方が共依存的であると叱責されることがあり、悩みを抱いていた。
・被告は、平成29年4月、C病院における研修の一環として依存症に関するセミナーを受けたが、その中で、父親が酒乱であり兄姉から虐待を受けたことにより自分がアダルト・チルドレンになっていたことを認識し、また、息子に浪費癖があったことなどから、それ以降、ギャマノンが主催するミーティング等に参加するようになった。といった被告側の事情としてアダルトチルドレンとして認識を有し、両者の出会いのきっかけとなるミーティングに参加していくことになりました。
2 アダルト・チルドレンの自助グループへの参加し、Zのことを【師匠】と呼ぶ関係性に至っていたこと
・被告とZは、平成29年8月、ともに参加した上記ミーティングにおいて知り合い、それ以降、一緒に、アダルト・チルドレンの自助グループ等に参加するようになった。
・そして、被告がZに看護師としての患者への援助の仕方等について相談して、Zがこれに応じるようになり、平成30年6月からは、両者は、会議室を借りるなどして、本格的に学習に取り組むようになった。両者のこの関係性を踏まえ、被告は、Zのことを「師匠」と呼んでいる。
3 境界線・対人関係療法、動機付け面談等の知識・スキルを指導する旨の契約書の締結
・被告とZは、平成30年7月7日、Zが、被告に対し、境界線(自分と他人を区別する人間関係の境界線)、対人関係療法及び動機付け面接等の知識やスキルについて指導するという内容の契約書(以下「本件契約書」という。)を作成した(乙1、8)。本件契約書には、下記の記載がある。
記3 二人の目標
AC(アダルト・チルドレン)の仲間として、後からくる仲間のためにも、自己の回復に取り組み、性別を超えた究極の仲良しさんを目指す。4 注意事項
① 12ステップ(嗜癖〔アディクション〕、強迫性障害、その他行動問題からの回復のための方針のリスト)を用いるACなどのスポンサーシップでは、異性間のつながりの危険性をステップ13として示している。
② ACの特徴として、愛を哀れみと間違えて哀れんだり救ってあげたりできる人を愛する傾向があると示している。
よって、この2つに陥らないように十分に注意する。3 具体的な進め方
① 心理学や援助スキルに関する図書の読み合わせ
② AHや「奇跡のコース」、ASK(株式会社アスク・ヒューマン・ケア〔以下「ASK」という。〕)などの講座を共に受講する
③ 仕事や家族における困り事の分かち合いを行う
④ 上記のことを実践できるようになるために、ロールプレイングなどの練習を行う。
⑤ 人の生き方や幸せに関する映画やDVDなどを視聴する
⑥ 日ごろできないと思い込み抑圧していることをできるようになるため、楽しいことをしても罪悪感を感じないようにするために、旅行等に行く5 学習練習の場所
公共の会議室を利用することが好ましいが、各種制限により利用できないことが多いため、DVDを再生することができる宿泊施設を利用することがある。ただし、本契約の趣旨を逸脱しないように注意して、決して男女の関係にならないようお互いが気をつけること。
として、男女の関係にならないようにお互いが気を付け、境界線・対人関係療法、動機付け面談等の知識・スキルを指導する方法として、公共の会議室以外に、DVDの再生のために宿泊施設を利用することがある旨などが合意されていました。一般的な事案においてここまでの経緯や合意書が締結しているために、ホテルを利用しているといった事情が説明できる事案は多くはないでしょう。
4 被告とZの宿泊を伴う交際等
① Zは、被告と交際するうちに、被告に女性としての魅力を感じて性的な欲望を抱くようになり、以下のように一緒に宿泊した際などに、被告を性的な関係に誘ったことがある。
② 被告とZは、平成30年1月14日、一緒に、熊本を訪れた。
③ 被告とZは、同年10月1日から同月4日にかけて、一緒に、東京を訪れた。
④ この際、両者は、3泊とも同室に宿泊し、うち前2泊はダブルベッドの設置された部屋に宿泊した。
⑤ そして、両者は、同年10月2日から同月3日夕方までは、ASKで開催されたグリーフワーク(身近な人と死別して悲嘆にくれる人がたどる心のプロセス)を受講し、同月3日夕方以降と同月4日には、東京ディズニーシーを訪れた。なお、この東京行きの目的について、Zは、予め、原告に対し、研修であると説明していた。
⑥ 被告とZは、同年10月18日から同月19日にかけて、一緒に、福岡市立今宿野外活動センターを訪れ、同所のロッジに宿泊した。その利用許可申請者はZであり、団体名は「*研究会」、利用目的は「カウンセリング心理学の研究」とされていた。 なお、当初予約していたのは4名であったが、2名がキャンセルしたため、残った被告とZが宿泊することになったという経緯であった。
⑦ 被告とZは、同年12月13日から同月14日にかけて、一緒に、福岡市中央区内のラブホテルに宿泊した。
⑧ 被告とZは、平成31年1月23日から同月25日にかけて、一緒に、沖縄県石垣島を訪れた。 この際、両者は、2泊とも同室に宿泊した。事前に作成された行程表においては、各日の日中は観光が予定されていたが、夜は2日とも午後10時からDVDの視聴が予定されていた。なお、この石垣島行きについて、Zは、予め、原告に対し、職場の慰安旅行であると説明していた。
⑨ 被告とZは、令和元年5月18日から同月21日にかけて、一緒に、東京を訪れた。 この際、両者は、3泊とも同室に宿泊し、最初の1泊はダブルベッドの設置された部屋に宿泊した。そして、両者は、最終日には、東京ディズニーランドを訪れた。 なお、この東京行きの目的について、Zは、予め、原告に対し、研修であると説明していた。
⑩ 被告とZは、一緒に、令和元年6月7日午後9時27分にラブホテルの一室に入り、同月8日午前11時47分に同室を出て、その後、同日午後1時55分から、映画館において、映画「アラジン」を鑑賞した。なお、この宿泊の目的について、Zは、予め、原告に対し、研修であると説明していた。
⑪ 同年6月8日、Zが夫婦割引を利用した上記映画のチケットの半券を自宅に放置していたところ、これを原告が発見したことから、原告は、Zの不貞行為を疑い、探偵事務所にZの素行調査を依頼した。なお、原告は、過去に2度、Zの浮気を疑ったことがあった。
⑫ 被告とZは、一緒に、同年6月21日午後8時5分頃に福岡市東区内のラブホテルの一室に入り、同月22日午前6時36分頃に同室を出た。同ホテルを出る際、両者は手をつないでいた。
⑬ 被告とZは、一緒に、同年6月24日午後7時より前から福岡市博多区内のラブホテルの一室に滞在しており、同日午後9時58分頃に同室を出た。なお、Zは、同ホテルのポイントカードを持っていた。
⑭ 被告とZは、同年7月18日から同月20日にかけて、一緒に、北海道を訪れた。なお、この北海道行きの目的について、Zは、予め、原告に対し、研修であると説明していた。
上記の内容を見ると、相当程度ホテルにいっていることは認定されており、一般的な事案であれば、不貞行為があったことが強く推認される事案であることはいいえるでしょう。
5 被告とZのメール(LINE)のやり取り
被告とZは、平成30年12月17日から平成31年1月15日までの間に、下記の内容のメール(LINE)を含む多数のメールのやり取りをした。
記
(ア)被告:平成30年12月17日午後11時22分
「やっぱり悪いことは出来ないです。不倫でしかないと思いました。正直、他の人でなくて良かった。私も凄く愛しているから辛いです。」(イ)被告:同日午後11時45分
「もう何度目だろう。この関係を続ける限り苦しみ続けなければならない。会うのを止めれば時間が解決してくれるはず。」(ウ)Z:同年12月18日午前7時33分
「俺たちに罪はなく 仮に罪があると妄想しても、その罪は赦されている。」(エ)Z:同日午前9時57分
「肉欲が罪ならば、まずは、それを手放すしかないのかな!」(オ)Z:同年12月19日午後9時56分
「肉体関係は諦めたとしても あなたとの楽しみや喜びは失っていないと信じています。」(カ)Z:同日午後10時16分
「例え性的な快楽を分かち合えなくとも、それを上回るものはたくさんあるのだよ」(キ)被告:同日午後10時34分
「抱きしめたい 癒されたい でもできない」(ク)Z:同年12月23日午前9時30分
「神の前で 俺たちは不純なのかな あなたが不倫という言葉を使う限り、きっとそうなのでしょう。でも、今さら、子孫を残すための営みではないよな。俺は喜びや潤いを分かち合っているのだと言い切ります。」(ケ)Z:平成31年1月14日午前6時29分
「俺が今抱えている衝動は すぐにでも あなたに触れていたい←肉体的にね。そして、俺が勝手に我慢しているだけなのだろうけどね。」(コ)Z:同年1月15日午前8時12分
「俺は 俺の性欲と闘っているのさ。中学生ではないけれど、二人の関係を汚してはいけないと思いこんでいます。でも、欲望に負けいるのは、ご存じのことでしょう。少しあなたのせいにするけど あなたが不倫や密会を望むたびに 俺の愛はそよな密かなものではないことを伝えているつもりです。つい性的な欲望に負けてしまうけれど、俺はあなたのことをゆっくり、丁寧に愛したいのです。」(サ)被告:同日午前8時16分
「ただ愛しているではダメなの?汚すとか丁寧とか何?私には分かりません。今後スキンシップ無しで!」(シ)Z:同日午前8時33分
「欲望のままに逢いたい、セックスしたいなんて言えない、言えない。そうなったら、俺自身や二人の関係は終わるだろうなと思っています。それくらい愛し過ぎてしまった。」(ス)被告:上記(シ)に引き続き同日午前8時35分
「境界線引いて伺っています」(セ)被告:同日午後4時54分
「私は恋人でも彼女でもない。シアリングパートナーだから。」(ソ)Z:同日午後5時9分
「結婚を解消していない俺があなたの体を求めることはいけないことだ。と思っているのは、俺のひとりよがりなの?そんな俺をあなたは許して、受け入れてくれるの?不倫関係とかではなくて、せめて二人の間だけでは愛し、愛されているって混じりっけのない純真なものだと。」(タ)被告:同日午後5時12分~15分
「悩むくらいならやめた方が良いと思います。シアリングパートナーを貫いたほうが良いと思います。なので、学習以外は会いません。愛してるとかも言いません。誤解を招くような事もしません。」
以上のようなLINEのやりとりなどなされていました。近年の事案においては、やりとりについての記録が残っていることが多く、後で紛争となった場合にLINEのやりとりが不貞行為を推測する方向、不貞行為を排斥する方向の事情として利用をすることができる場合があります。そのため、具体的な事情、やりとりの内容を立証できるように準備、検討しておくことが大切となります。
■ 裁判所の判断内容
前記認定のとおり、成人の男女である被告とZは、多数回、一緒に旅行して同室に宿泊し、しかも、ダブルベッドの設置された部屋やラブホテルに宿泊することも少なくなかった。
また、一般に、「不倫」とは、既婚者が配偶者以外の相手と性行為に及ぶことを意味する言葉であるが、被告は、Zに対し、「やっぱり悪いことは出来ないです。不倫でしかないと思いました。」などのメールを送り、Zは、被告に対し、「神の前で 俺たちは不純なのかな あなたが不倫という言葉を使う限り、きっとそうなのでしょう。」などのメールを送っている。
これらの事実に照らせば、被告とZが性行為に及んだ事実が極めて強く推認される。
以上のとおり、多数回に旅行し、同室に宿泊し、ラブホテルに宿泊しているといった事案では、性行為に及んだ事実が強く推認されるといった判断についてはこの判決でも変わりはないように考えられます。本件の特殊性として、従前の関係性、LINEでのメッセージの内容から真実性を疑わせる事情が立証ができていたということになるでしょう。
ところで、被告とZのメールのやり取りは、前記認定のとおり、いずれもアダルト・チルドレンかつ共依存症であると自覚する両者が、精神世界の理論についてマンツーマンで相互学習するという精神的に緊密なつながりのある師弟関係にある上、第三者の介在を排除した2人だけの閉じられた世界で行ったものであるため、その表現は、ときに、妄想的、夢想的あるいは宗教的であったり、比喩的あるいは誇張的であったりし、また、言葉遊びの要素や、自己陶酔的あるいは自意識過剰な部分も見受けられることから、その内容を正確に理解することは必ずしも容易ではない。
そこで、上記のような被告とZの特殊な関係等を踏まえ、両者の間に性行為があったか否かという観点から、両者のメールのやり取りを再度精査することとする。
被告とZとの特殊な関係性を踏まえて、メッセージのやりとりが性交渉という不貞行為があったことを推測させるものであることが精査することとしてます。被告側としては本件の特殊性を主張し、裁判所において、LINEの精緻な分析から不貞行為の存在を前提とするものではないやりとりがなされているとの立証の成功しているといえるでしょう。
① まず、Zのメールのうち「肉体関係は諦めたとしても あなたとの楽しみや喜びは失っていないと信じています。」、「俺が今抱えている衝動は すぐにでも あなたに触れていたい←肉体的にね。そして、俺が勝手に我慢しているだけなのだろうけどね。」及び「欲望のままに逢いたい、セックスしたいなんて言えない、言えない。そうなったら、俺自身や二人の関係は終わるだろうなと思っています。」などのメールは、被告に対して性的な欲望を抱き性行為を望みながらも、それが実現したときには両者の関係が終了すると予想されるため、そのような事態に至らないように、性的な欲望を抑え性行為を諦める心情を示すものであり、同じく「俺は 俺の性欲と闘っているのさ。中学生ではないけれど、二人の関係を汚してはいけないと思いこんでいます。」及び「結婚を解消していない俺があなたの体を求めることはいけないことだ。と思っているのは、俺のひとりよがりなの?」などのメールも、既婚者である自分が被告に性行為を求めることは倫理的に許されないという判断の下、葛藤しながらも、性的な欲望を抑え、被告に性行為を求めることを自制しているという認識を示すものであって、いずれも本件不貞行為の存在を前提にするものとは考え難い。
② 次に、被告のメールのうち「私は恋人でも彼女でもない。シアリングパートナーだから。」及び「シアリングパートナーを貫いたほうが良いと思います。なので、学習以外は会いません。愛してるとかも言いません。誤解を招くような事もしません。」などのメールは、自分は、Zと性的な関係にはなく、あくまで相互学習における分かち合いの相手(シェアリングパートナー)という立場であって、それに徹するべきという認識を示すものであり、また、Zの前記「欲望のままに逢いたい、セックスしたいなんて言えない、言えない。」などというメールに対し、被告は「境界線引いて伺っています」と返信しているが、これは、Zが反語的な表現を用いて性行為を求めるのに対し、その土俵に乗ることなく受け流しているものと理解され、これらも本件不貞行為の存在を前提にするものとは考え難い。
このような被告とZのメールのやり取りに鑑みると、前記で述べた推認には重大な疑問を差し挟む余地があるといわざるを得ない。
メールのやり取りから、不貞行為を前提としてやりとりがなされていないことから、当事の認識を示し、推認過程に疑義があることが述べられています。ホテルに行ったものの、肉体関係がないと立証していくためには、推認に重大な疑問を差し挟む余地があるという事情を明らかにしていくことが必要となるでしょう。
③ 被告は、メールの中で「不倫」という言葉を使用したことについて、学習のために2人が密かにラブホテルに出入りすること自体を指し、あるいは、Zが被告を性的な関係に誘う言動に及んだときにこれを諫めるために使用したものであると主張するが、上記のようなメールのやり取りを両者の特殊な関係等を踏まえて解釈し直せば、被告の上記主張は必ずしも理解できないものではなく、被告が両者の関係について「不倫」という言葉を使用したからといって、直ちに本件不貞行為の存在を認めることはできない。
④ また、被告は、Zと一緒に旅行して同室に宿泊し、しかも、ダブルベッドの設置された部屋やラブホテルに宿泊することもあったことについて、その理由として、学習に関するDVDの視聴、書物の読み合わせ、ロールプレーや分かち合いを行うために、プライバシーが保障される空間や設備が必要であることや、同室にする方が料金が一室分で済むし、ラブホテルは一日単位ではなく時間単位での料金制であるため、料金を低額に抑えられることを挙げるが、Zと同室に宿泊したりラブホテルを利用したりした理由として相応のものといえるから、被告の上記主張をおよそ合理性のない弁解と断定して直ちに排斥することはできない。
⑤ さらに、被告は、Zと行動をともにした目的について、平成30年1月14日の熊本行きはギャマノン九州エリア合同オープンミーティングへの参加であり、同年10月1日から同月4日にかけての東京行きはASKで開催されたグリーフワークの受講等であり、同月18日から同月19日にかけての福岡市立今宿野外活動センターにおける宿泊は境界線に関する学習であり、平成31年1月23日から同月25日にかけての石垣島行きは「自分軸」の実践及び自分の人生の責任は自分で負うという内容のDVD「I AM」の視聴等であり、令和元年5月18日から同月21日にかけての東京行きはASKで開催されたトゥルーカラーズ(対人関係とコミュニケーションの講座)の入門及び実践講座の受講等であり、同年7月18日から同月20日にかけての北海道行きは「第16回当事者研究全国交流集会IN浦河」への参加であったと説明し、Zとラブホテルに宿泊した目的についても、AHのファシリテーター・トレーニング等のDVDの視聴や学習に関する書物の読み合わせ等であったと説明しているが、これらは、本件契約書の「3 具体的な進め方」の内容とも符合していて両者による相互学習の一環と捉えることができ、逆に、これを離れて両者が行動をともにした場面は特に見当たらない。
⑥ 加えて、被告は、令和元年6月22日午前6時36分頃、被告とZがラブホテルを出る際に手をつないでいたことについて、自分が羞恥心が強いため、いかがわしい場所であるラブホテルを出る姿を知り合いに見られることを怖れて、出るのを躊躇しているときに、前方にいたZが被告を促す目的でその手を取って引っ張った瞬間を撮影されたものにすぎず、性的な意味合いを含む親密な接触ではない旨主張するが、甲第2号証14頁の写真等における両者の態勢や表情等からすれば、被告の上記主張をおよそ合理性のない弁解と断定して直ちに排斥することはできない。
なお、Zは、原告と離婚するに際し、原告に対し慰謝料として150万円を支払っており、これについて、Zは、離婚を早期に成立させるために名目については異議を述べなかったにすぎず、本件不貞行為を認めたものではないと供述するが、Zの上記供述をおよそ合理性のない弁解ということはできず、その信用性を否定することはできない。
このように、本件不貞行為の存在について、一方で、前記のとおり、これを極めて強く推認させる事情があるものの、他方で、前記イのとおり、上記推認に重大な疑問を差し挟む事情があるため上記推認は動揺することとなり、これに前記ウの事情を併せ考慮しても、その疑問は払拭されず、未だ真実性の確信を抱くには至らないから、結論として、本件不貞行為の存在については、証明不十分といわざるを得ない。
5 まとめ
ホテルに滞在している場合には、一般的には、不貞行為をおこなっていたことが強く推認されるために、性的関係がないことを示すとすると従前の関係性、LINEなどのメッセージのやりとりからホテルに滞在に一定の合理的理由、強い推認を排斥するだけの具体的事情が存在しなければならないこととなります。事件の内容にはよりますが一般的に不貞行為がなかったとまでいえるまでには重大な疑義を差し挟む事情が存在していることが必要となるでしょう。
いずれにしろ請求側では現在存在する証拠によってどこまでの請求ができるのかが問題となり、非請求側では、強い推認させる事情について重大な疑問を差し挟む事情を証拠によって立証をしていくことが必要となってくるでしょう。
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