「別居している」と聞いていたのに…慰謝料を支払わないといけないの!?
慰謝料を請求された「離婚する予定だから」
「半年前から別居していてあとは離婚条件をつめるだけ」
「現在離婚調停中だから」
これらの言葉を信じて交際を始めたところ,交際相手の配偶者から不貞慰謝料を請求された,というケースは少なくありません。
本当に別居していた場合,慰謝料を支払わなければならないのでしょうか。また,実際は別居していなかったが,「別居していると信じていた」場合はどうなるのでしょう。ここでは,不貞慰謝料と別居の関係について具体的にお話ししていきます。
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1.不貞慰謝料の根拠
不貞行為は,民法上の不法行為に該当します。不貞行為による慰謝料の請求は,不法行為に基づく損害賠償請求ということになるのです。そのため,不貞慰謝料を請求するには,民法上の不法行為の要件を満たす必要があります。
具体的には,
不貞行為を行い,故意・過失によって婚姻関係の平穏を害した
と言える場合に,不貞行為を行った当事者は慰謝料を支払う義務が生じます。
⑴婚姻関係の平穏
民法上の不法行為が成立するためには,「法律上保護された利益」を侵害されたと言えることが必要です。不法行為の場合,「婚姻関係の平穏」がこの「法律上保護された利益」に該当します。不貞行為を行い,婚姻関係の平穏を侵害した,つまり,「婚姻関係を破綻させた」と言えることが必要になるのです。
どういう事情があれば「婚姻関係が平穏だった」と言えるのか,疑問に思われる方もおられるでしょう。しかし,一般的に,「婚姻関係にある」以上はその関係は平穏だったと推測されます。そのため,特別な「仲良しエピソード」等がなくとも,婚姻関係の平穏という法律上保護された利益は存在するものと考えられるのです。
⑵故意・過失
不法行為が成立するためには,「故意・過失によって」法律上保護された利益を侵害したと認められなければなりません。不貞行為の場合,「故意・過失によって婚姻関係の平穏を害した」と認められなければならないのです。
具体的には,
①(不貞相手が)既婚者であると知っていた (=故意)または,既婚者であると知り得る状態にあった(=過失)
②平穏な婚姻関係にあると知っていた(=故意)または,平穏な婚姻関係にあることを知り得る状態にあった(=過失)
と言えることが必要になります。
2.別居と婚姻関係の破綻
「別居」は婚姻関係が破綻している最たるものと言えるでしょう。民法上,夫婦は同居義務や互いに協力して生活する義務を負っています。
民法752条
夫婦は同居し,互いに協力し扶助しなければならない。
その義務に反する状態を続けている以上,「平穏な婚姻関係を維持している」とは考えにくいものです。そのため,不貞関係に至った時点で既に夫婦が別居していた場合,「不貞が原因で婚姻関係が破綻した」とは言えませんから,民法上の慰謝料支払い義務が発生する可能性は低いのです。
もっとも,一言に「別居」と言ってもその態様は様々です。婚姻関係は破綻していないものの,別居せざるを得ないという状況に陥る場合もあるでしょう。そのため,別居しているからといって,必ずしも婚姻関係が平穏なものでないとは言い切れないのです。
⑴離婚調停中の別居
離婚することは決まっているが財産分与等の離婚条件が折り合わず,家庭裁判所に調停を申し立て,正式に離婚が成立するまで別居している,というケースが考えられます。また,調停に至っていないにせよ,離婚するため別居をしており,離婚届も作成済みだという場合もあり得るでしょう。
これらのケースでは,既に離婚することを前提としていますから,婚姻関係は破綻していると認められやすいはずです。そのため,不貞慰謝料を請求されたとしても,支払義務が認められない可能性もあります。
もっとも,別居はしているが度々互いの家を行き来していたとか,旅行等に出かけていた等の事情があると,「婚姻関係が破綻していた」とまでは認められないかもしれません。
⑵夫婦喧嘩で家出
夫婦喧嘩をして家を飛び出す,ということもあるでしょう。「実家にしばらく帰ります」というきっかけで別居に至った,というケースです。
喧嘩をして家を飛び出しただけなのであれば,「婚姻関係が破綻した」とまでは言えないかもしれません。もっとも,喧嘩がきっかけの別居が数か月続き,その間連絡等も一切取っていなかったという場合には,婚姻関係が破綻していると認められる可能性もあるでしょう。
⑶冷却期間を置くための別居
夫婦喧嘩をして夫婦仲が悪くなりそうになった。そのため,互いに自分自身を見つめ直すため,夫婦仲の改善を図るため,距離を置くことにした。という理由で別居をスタートさせるケースも存在します。
これは,今後も婚姻関係を継続するための前向きな別居といえるでしょう。そのため,婚姻関係が破綻しているとは認められにくいはずです。
⑷単身赴任
仕事の関係で別居することになった,というケースは多々あります。当然ですが,仕事のためにやむなく別居するに至っただけですから,婚姻関係の破綻は認められにくいでしょう。
⑸家庭内別居
同じ家には住んでいるが会話もなく寝室も別という,いわゆる「家庭内別居」の状態にあるという相談はよくあります。会話もない以上夫婦の関係は終わっており,婚姻関係は破綻している,という主張はよく耳にします。
しかし,同じ家の中に生活の拠点を置いていることに違いはありません。そのため,婚姻関係の破綻は認められにくい傾向にあります。
3.別居していると信じていた場合は?
⑴不法行為の要件における「故意」の問題
不貞相手に「離婚を前提に別居している」と聞かされていたため交際を始めたものの,実は別居していないことが判明した,という相談を受けることがあります。
この場合,別居していると信じている当事者には,自身の行動によって「婚姻関係の平穏を害している」という認識がないはずです。そのため,「故意」は認められにくいでしょう。
⑵不法行為の要件における「過失」の問題
「故意」が認められないとしても,「過失」が認められるかは別問題です。
つまり,「別居していないことを知り得た状態」にあったのであれば,婚姻関係を破綻させたことに対する過失は認められます。
「別居しているから」という不貞相手の言葉を信じただけでは「過失がなかった」とは言えません。また,毎日同じ時間に帰るとか,自宅に招いてくれないとか,自動車にチャイルドシートが載っているとか,「別居していないのでは?」と疑われるような事情があれば,過失の存在は認められる傾向にあります。
そのため,不貞相手の「別居しているから」という言葉を安易に信じるのは危険です。
4.まとめ
ここまでお話ししてきたように,不貞関係に至るまでに既に「婚姻関係が破綻していた」と言える場合には,慰謝料の支払義務が発生しないかもしれません。婚姻関係破綻の最たるものが「別居」といえるでしょう。離婚を前提に別居した後に不貞関係に至った場合には,慰謝料を支払わなくて良い可能性があります。
もっとも,別居とはいえ「婚姻関係の破綻の現れである別居」であるかどうかは,一見して分かりにくいものです。また,「不貞関係にあったのは別居した後である」ということも,感情的になっている相手方に分かってもらうのは困難でしょう。更に,「実際には別居していなかった」という場合に,「別居していたと過失なく信じていた」との主張を証拠に基づいて説明するのは,当事者にとって至難の業です。
不貞行為があったことに間違いはないが,それは不貞相手の別居後だったとか,別居していると過失なく信じていた,という事情がある場合には,法律の専門家である弁護士に是非一度ご相談ください。
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