財産分与
財産分与は、夫婦の間の財産を分けるものです。令和元年の司法統計(第27表「離婚」の調停成立又は調停に代わる審判事件数―財産分与の支払額別婚姻期間別―全家庭裁判所)によれば、婚姻期間の長さによって財産分与の金額が変わってくることとなります。婚姻期間が5年未満の場合には、財産分与の金額は100万円以下が大きな割合となっていますが、婚姻期間の長期化すると、財産分与の金額も増加し,婚姻期間が20年以上となってくると1000万円、2000万円の間といった案件も相当数に増えてきます。このように財産分与は婚姻期間中に形成した財産の清算であるため、婚姻期間に相応したきちんとした清算をしなければ大きな損をしている可能性がありえます。そこで、このページでは浮気・不倫に伴う離婚において財産分与の基礎知識を解説していきます。
1 財産分与とは
財産分与は、①婚姻中に形成した財産の清算を行うもの、②離婚後の扶養を行うもの、③慰謝料の支払いを行うものの3要素があり、それぞれ個別の基準により具体的な基準により算定をしていくこととなります。
そのうち、家庭裁判所でも請求が認められやすい、主としての財産分野は、夫婦共同生活において築いた財産を清算する制度である①の性質のものです。
夫婦が婚姻中に築いた財産は、夫婦が協力して形成したものであり、夫婦の財産は共有しているものと考えられます。これは片方が専業主婦(主夫)などであっても、相互の協力によって財産を築くことができたと考えられるためです。
そのため、夫婦関係が解消される場合には、夫婦の財産は清算されることとなります。
民法は768条1項は、夫婦の離婚に伴って生じる婚姻中の夫婦財産の清算を行うものや離婚後の扶養等を処理する手続きとして財産分与制度が定められています。
2 財産分与の種類
財産分与制度は、夫婦の離婚に伴う財産の清算であるため、夫婦共有財産の清算以外にも、離婚後の扶養、離婚に伴う慰謝料、未払い婚姻費用の清算などの様々な性質があることとなります。慰謝料的財産分与と未払い婚姻費用の清算などを弁護士を通じて計算をしていくことが必要となるでしょう。
(1)清算的財産分与
清算的財産分与とは、婚姻中の夫婦共同財産の清算をいいます。
家庭裁判所の考え方は、原則として、夫婦が婚姻中に築いた財産の清算を行うものと考えられています。夫婦の財産形成については寄与の程度は平等であると考えられるため、2分の1での清算が原則となります。いわゆる2分の1ルールと呼ばれます。
もっとも、寄与度によって一定の修正があります。寄与度が認められるためには、夫婦の一方に特別な能力、専門的知識、努力がある場合、財産形成に係る夫婦の貢献度に明白な格差があると容易に認定できる場合となるでしょう。
(2)扶養的財産分与
扶養的財産分与とは、婚姻後の扶養として財産を渡すものをいいます。
扶養的財産分与は、離婚をしたときに、配偶者の生活のために必要性があり、収入や財産がある場合にこれを負担する能力がある場合に認められるものです。
扶養的財産分与は、補充的に行うものであるため、清算的財産分与と慰謝料的財産分与を考慮し、なお生計を立てることが困難な場合に請求が認められるに過ぎないものとなります。高齢や病気の場合や専業主婦で自活ができない場合などに例外的に認められることとなるでしょう。
扶養義務が認められるかどうかは、要扶養状態にあるか、請求者の年齢、健康状態、再就職、再婚の可能性、資産、債務、親族の援助の可能性、子の有無、扶養能力の有無、所得能力、資産、債務の有無などを総合考慮して判断されるでしょう。
妻が精神病である事案などで、夫に月2万円の死亡までの財産分与を認める事例(札幌地裁昭和44年7月14日)や妻が73歳の専業主婦、無資産、夫は有責配偶者の事例で、扶養的財産分与として月10万円×10年の扶養的財産分与を認める事案があります(東京高平元年11月22日)。
(3)慰謝料的財産分与
慰謝料的財産分与とは、離婚に伴う慰謝料として財産を渡すものをいいます。
離婚慰謝料については、財産分与とは別に請求することはできます。離婚慰謝料については不法行為に基づく損害賠償請求権であるため、不法行為が明確に立証ができない場合にも調停などで考慮することができるでしょう。もっとも、財産分与の中で慰謝料を請求したとしても補償されない部分があるため、慰謝料請求を別途行うほうがよいでしょう。
3 財産分与を決定する流れ
(1)対象財産の範囲の確定(特有財産の有無)
夫婦の財産には、①特有財産、②共有財産、③実質的共有財産の3種類があります。
①特有財産(固有財産):婚姻前から保有する財産や姻中に夫婦の一方が相続や贈与によって取得した財産
相続などにより取得した。装身具など各自の専用の財産なども特有財産と扱われます。
②共有財産:夫婦共有名義で取得した財産。婚姻中に取得した家具道具など
③実質的共有財産:一方の名義でも実質的には夫婦の協力によって形成された財産のことをいいます。
このうち財産分与の対象となるものは、②共有財産と③実質的共有財産です。
共有財産とは、夫婦が協力して取得した財産であり、実質的共有財産は、名義は一方のものであるものの、夫婦が協力して取得した財産で実質的にみて共有財産といえるものをいいます。不動産などの登記名義が片方の配偶者名義になっているものを言います。
(2)対象財産の範囲の基準時
対象財産の基準時とは、別居時点を基準とするのか、離婚時点を基準とするのか、裁判時点を基準とするのかを決めていくこととなります。
清算的財産分与の場合には、夫婦の協力によって財産形成がなされていることが前提とされるため、別居に至った場合には、夫婦の協力関係が解消されたと考えらえるでしょう。
もっとも、離婚には一定の時間がかかるために財産の変動を考慮しなければならないこととなります。そこで、公平の観点から、離婚時点や、調査、裁判の申立て時など調整を図っていくこととなります。
(3)対象財産の評価
離婚調停前に別居に至っている場合には、別居時点が基準となるでしょう。別居した場合には、さらに共同財産の形成をするということが想定しにくいためです。
・預貯金や保険の解約返戻金などは別居時、調停申立時が基準となることが多いでしょう。
・不動産の場合や株式の場合には、評価額が変わるため、離婚時点での評価が基準となります。
・退職金については、将来給付されるか不明であるために対象財産に含めるのかに争いがあります。一方で、給与の後払いとしての性質があるとして別居時点での金額を算定し、対象財産と評価をすることがあり得るでしょう。
(4)財産分与割合
財産分与の割合としては、夫婦は寄与度は平等であると考えられるため、2分の1により判断がなされることとなります。
原則として、2分の1ルールを前提に検討がされます。
例外的には、2分の1と異なる特段の事情を主張、立証を行い、寄与や貢献の割合を変更していくことがあり得ます。配偶者が医師で病院経営者である場合や芸術家の場合、海上勤務をしていた場合など特殊な努力などにより寄与割合が変化していく場合があり得ます。
不動産などについては、購入代金の原資などを考慮し、寄与度を計算していくといったことが考えられるでしょう。
(5)分与方法の決定
分与方法については、金銭による一括支払いや分割支払い、定期金支払い、現物の給付など支払い方法を決定していくこととなります。退職金については、現時点での支払いができない場合、将来退職金が発生した時点で受け取るなどを分与方法を決定していくこととなります。
4 財産分与の対象財産
(1)現金・預貯金
婚姻後に夫婦共同生活で作った現金・預貯金は、原則として夫婦の共有財産とされます。
結婚前から所持した財産や相続などにより取得した預貯金は特有財産として清算の対象となりません。
別居時点の預貯金の金額を確認し、金額を把握することとなります。別居後に築いた預貯金については清算の対象とはなりません。
子ども名義の預貯金については、子ども自身のお小遣いを貯めていたものは子ども自身の固有財産であるため、対象財産とはなりませんが、将来の進学資金などについては、子ども名義の預貯金であっても夫婦の共有財産と判断される場合があり得ます。
別居前には、現金・預貯金に関する資料をできる限り集めておくことが大切となります。審判・訴訟の段階で調査嘱託を用いる場合はありますが、すべての口座を発見することは困難であり、銀行名、支店名などを把握していくとよいでしょう。
(2)有価証券・投資信託
婚姻後に購入された有価証券・投資信託が対象となります。婚姻前に購入した財産を清算の対象となりません。有価証券・投資信託については、現物で分与をする方法や現金に変えて分与する方法があり得ます。
有価証券・投資信託については、別居時と離婚時には評価額が変わってくることとなります。そのため、評価額を離婚成立時が基準時とされることとなるでしょう。
非上場会社の株式の場合には、公認会計士等の専門家に会計帳簿等を調査することで評価額を示すこととなります。譲渡制限株式の場合には、譲渡手続に会社法上の承認手続きが必要となってくるでしょう。
(3)不動産
不動産は、婚姻後取得しており、別居時に存在していた不動産については対象財産となります。それぞれの場合において不動産の処理の方法が変わってくることとなります。
① 残ローンがない場合
残ローンがない場合には、不動産の売却代金から売却費用を控除し残金を財産分与の対象として、分与することとなるでしょう。
不動産を売却せず、一方が取得する旨の財産分与を行う場合には、預貯金などほかの財産で分与額を調整していくこととなるでしょう。
② 残ローンがある場合
残ローンがある場合で、不動産価値が負債を上回っている場合には、不動産の売却代金から売却費用を控除し、ローンを弁済したうえで、残額を財産分与の対象として、分与することになるでしょう。
残ローンがある場合で、不動産を売却せず、債務を支払い続けている場合には、返済を続けていくことになります。
契約者変更ができるのかどうかを確認することとなります。
ペアローンである場合には、ペアローンや連帯債務者の変更ができるかを確認することとなります。契約者変更の手続きができる場合には、契約者を変更し、弁済を続けていくといった手段を取ることになるでしょう。
また、不動産の名義について、単独名義とするか、共有名義とするのかを財産分与を原因とする所有権移転登記、共有持分移転登記をするかを選択することとなります。
(4)自動車
婚姻生活中に購入した自動車についても財産分与の対象となりえます。自動車については売却をして売却代金を双方で分与する方法や片方が乗り続け、利用しない方が代償金を渡すといった方法があり得ます。名義変更が必要な場合には、自動車の名義変更手続きを行っていくことがあり得るでしょう。オーバーローンとなっている場合には、原則として、自動車は財産分与の対象とならないこととなります。
(5)動産(家具、電化製品)
婚姻生活中に購入した家具、電化製品などは財産分与の対象となります。もっとも、購入時点の価格ではなく、現在の価格となるためその価値は一定程度減少していることとなるでしょう。高額な宝石類などの場合には、売却したうえで按分する方法や市場価格を把握し代償金を受け取ることがあり得ます。ペットについても動産に当たるとして財産分与の対象となりますが、争いがあった場合にはどちらがペットの監護としてふさわしいか等をもとに判断することとなりえるでしょう。
(6)保険契約
保険(生命保険、学資保険、損害保険など)は、解約返戻金が発生するため、婚姻期間中に契約を行った保険や婚姻前に加入したものであっても、婚姻生活中の生活で増加した部分については実質的にみて夫婦の共有財産に当たるとして清算対象となりえます。企業年金についても、婚姻中の部分については、夫婦が協力しているとして共有財産といえる場合があります。契約内容を確認し、一時金として中間利息を控除して婚姻期間中に対応する部分を算定するなどをして具体的金額を算定していくことがあり得るでしょう。
(7)退職金・年金
退職金については、将来、給付を受けるものであるため、現段階での将来の給付が予測することが困難であるとの性質があります。そのため、20年後など長期の勤務が前提となる場合には退職金を財産分与の対象とすることは難しい部分があります。将来支給されることがほぼ確実といえるか否かを立証していくことが大切となってきます。
もっとも、別居や離婚時において現時点での退職金を算定することができるのであれば、現時点での退職金額を算定し、分与するといった方法もあり得るでしょう。現時点での清算が困難であるとして、退職後、一定期間後に支払義務を負うといった合意を行う方法があり得ます。
(8)負債
負債については、パチンコなどの浪費や各自がその名義で負担したものは共有財産ではないため、清算対象とならないとも考えられます。しかし、婚姻生活のために利用していた負債については、プラスの財産から借金などのマイナスの財産を差し引いて精算額を決定していくこととなるでしょう。負債のみであった場合には、債権者は契約者に対して請求を行うため、内部負担を定めることはあったとしても、負債額を2分の1とする財産分与はあまり想定はなされないでしょう。
5 財産分与の対象とならない財産
(1)特有財産
特有財産とは、名実ともに各自に帰属している財産をいいます。財産の形成に夫婦共同生活が寄与していないために、財産分与の対象となりません。典型的には、婚姻前からの特有財産(それぞれの名義が不動産、預貯金を婚姻前から所持していた場合)や婚姻後にそれぞれの家族から相続、贈与された場合には、特有財産といえるでしょう。
(2)特有財産の主張
特有財産は、各個人の財産であり、財産分与での清算対象にはなりません。
もっとも、民法では、夫婦のいずれかに属するか明らかでない財産については、夫婦の共有に属することが推定されます(民法762条2項)。そこで、特有財産であることは積極的に立証することが必要となってくるでしょう。
婚姻前に取得した財産であること、婚姻後であっても相続、贈与により取得した財産であることを預貯金の通帳、不動産登記簿、取引明細から明らかとしていくこととなるでしょう。証拠資料を提出し、それぞれの特有財産であることを積極的に主張していくことが大切となってきます。
6 財産分与の決定、時期
(1)時期
財産分与については、夫婦婚姻生活が解消された時点の価値が基準となりえますが、各項目により対象財産の基準時点はある程度は変化していることとなります。各時点における財産を適切に資料として把握していくことが大切です。預貯金などは別居時が基準時となるため、預貯金の通帳やWEB資料を保全しておくとよいでしょう。WEB明細については6か月程度でネット上見ることができなくなり、取引明細の取得が必要となってしまう場合がありえます。
別居後に適切な資料を集めることが難しくなる場合があるため、別居前より弁護士と相談し、準備を進めていくことが大切となります。
(2)手続き
合意による清算
財産分与については、まず、合意により清算を行うといった方法があり得ます。
夫婦共有財産の清算のほか、扶養的財産分与、慰謝料的財産分与などを含めて清算を行うことがあり得るため、合意によりふさわしい財産分与を定めることができれば、夫婦関係の解消としてはよい清算となるでしょう。
もっとも、裁判所での文書送付嘱託、文書提出命令、弁護士での弁護士会照会などを経ていない場合には、開示されていない財団があり、適切な清算を行うことができない場合があり得るでしょう。
合意による清算を行う場合にも証拠資料を確認し、きちんとした合意書を作成して清算を行っていくことが大切となります。
調停・審判・訴訟による清算
財産分与については、調停・審判により清算を行う方法があります。裁判所での手続きを通じて行うため、きちんとした資料を出す心理的圧迫を与えることができ、両者ともに後での蒸し返しを防ぐことができるため、財産分与手続で清算的財産分与をきちんと行いたい、損をしたくない場合には、調停・審判を利用することが考えられます。
多くの場合には、離婚調停・離婚訴訟において附随的なものとして財産分与が行われることとなるでしょう。
既に離婚をしたのちであっても、離婚が成立した日から2年以内であれば、裁判所に対して財産分与の申立てを行うことができます。家庭裁判所に対して、離婚した元夫、元妻から財産分与調停の申立てを行い、裁判所での協議を行っていくことができます。審判で必要な立証を行い、判断を行うこともできるでしょう。
(3)分与前の保全措置
財産分与を行うにあたっては、財産分与の協議を行う中で、不動産を売却されるなど財産を流出される危険性があり得ます。そこで、財産分与などの審判ができる事件について、審判前の保全処分の申立てを行うことがあり得ます。相手方の財産の処分を制限することとなるため、保証金の納付が必要となってくるため、どこまで保全の必要性があるのかを検討しておくことが必要となってきます。
7 まとめ
財産分与については、離婚の中でももっとも大きな金銭の移動となることが多く、財産を隠匿される、財産の評価について問題となるなどの法的に難しい論点が絡んでくる紛争となります。過去の婚姻費用を財産分与として処理を行うなど、他の争点や清算を財産分与にて調整をしていくこともあり得ます。財産分与については、個人で行うことが難しい部分があるために適切に財産分与を行うために弁護士に依頼をされるとよいでしょう。天王寺総合法律事務所では、離婚問題に取り組む弁護士が所属しておりますので、財産分与紛争について解決をされた方はぜひお気軽にお問い合わせください。