「夫婦関係がうまくいっていなかった」との反論は通用する?
慰謝料を請求された不貞相手の配偶者から慰謝料を請求された
不貞相手から「夫婦関係は終わっている」と聞いていたのに…
夫婦関係が破綻している人と浮気をしても,慰謝料を支払わないといけないの?
不貞相手が結婚していると知りつつも,「もう離婚するから」という言葉を信じて関係を持ったところ,不貞相手の配偶者から慰謝料を請求されて驚いた,という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「夫婦関係は終わっている」「家庭内別居状態だ」「離婚について協議している」と言われ,これを信じていたのに,その配偶者から「離婚の予定はない」「週末は家族で出かけたりしている」と言われ,慰謝料を請求されるケースは少なくありません。
慰謝料を請求された方は,「夫婦関係は終わっていたはずなのに,慰謝料を払わないといけないの!?」と疑問を持つでしょう。
ここでは,夫婦関係が破綻していた場合にも慰謝料を支払う必要はあるのか,また,破綻していると信じていたという場合も慰謝料の支払い義務は発生するのか,についてお話ししていきます。
Contents
1.慰謝料請求の法的性質と要件
⑴不法行為に基づく損害賠償請求の要件
不貞行為の慰謝料を請求するということは,法的には,民法709条に規定する不法行為に基づく損害賠償請求を行うということです。
民法709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
民法709条にあるように,不法行為に基づく損害賠償を請求しようとする場合は,次の事項を証明しなければなりません。
①権利または法律上保護された利益が存在すること
②その権利・利益を侵害する行為を行ったこと
③侵害行為についての故意・過失
④損害の発生
⑤侵害行為と損害との因果関係
⑵不貞慰謝料を請求する場合に主張すべき事実
では,不法行為に基づく損害賠償として不貞慰謝料を請求する場合は,どのような事実を主張するべきなのでしょうか。上であげた①から⑤に当てはめて見ていきましょう。
①権利または法律上保護された利益
不貞慰謝料請求の場合,保護の対象となる利益は「婚姻関係の平穏」です。
夫婦はお互いに貞操義務・協力義務を負っています。そのため,これらの義務に基づく「婚姻関係の平穏」は法律上保護される利益と言えるのです。
「婚姻関係の平穏」は,結婚している以上存在すると考えられる利益です。
②権利・利益に対する侵害行為
「婚姻関係の平穏」を侵害する行為が,いわゆる「不貞行為」です。
具体的には,肉体関係の存在が「不貞行為」の前提と考えられています。
③侵害行為についての故意・過失
不貞慰謝料請求の場合,故意の対象について争いはありますが,一般的に「不貞相手が既婚者だと知っていた」と言うことができれば,不貞行為という侵害行為に対する故意が認められます。また,「既婚者だと知らなかったことについて過失があった」場合も,侵害行為について過失があると認められるでしょう。「既婚者だと知ろうと思えば知ることができた」というイメージです。
また,「婚姻関係の破綻」についても故意・過失の対象と考えられています。この点は,後で詳しくお話しします。
④損害
婚姻関係の平穏が破られた,つまり,婚姻関係が破綻し,精神的な苦痛等を被ったことが,不貞行為の慰謝料請求における損害です。
⑤因果関係
「不貞行為」という侵害行為によって損害が生じたことが必要です。
つまり,不貞行為があったから,婚姻関係の平穏が破られて精神的な苦痛を被ったと言えなければいけないのです。
2.「法律上保護される利益」が存在しなかったとの反論
ここまでお話ししてきたのは,仮に訴訟となった場合,慰謝料を請求する方が証明しなければならない事情です。では,慰謝料を請求された側の「夫婦関係はうまくいっていなかった」という主張はどのような扱いになるのでしょうか。
⑴「既に婚姻関係が破綻していた」と主張する
まず,不貞関係が始まった時点で既に婚姻関係は破綻していたと主張することが考えられます。
既に婚姻関係が破綻していたということは,不貞行為当時,既に「婚姻関係の平穏」という法律上保護された利益が存在していなかったことになります。侵害の対象である法律上保護された利益が存在していなかった以上,その後に不貞行為を行ったとしても不法行為は成立しません。
そのため,不貞行為時に既に婚姻関係が破綻していたのであれば,不法行為は成立せず,慰謝料を支払う必要もないのです。
⑵「家庭内別居」は婚姻関係破綻を基礎づける?
では,婚姻関係が破綻していたことを裁判所に認めてもらうためには,どのような事実を主張するべきなのでしょうか。
「夫婦の仲が悪かった」「家庭内別居の状態にあった」という主張が一番多いのではないでしょうか。
しかし,裁判所は「婚姻関係の破綻」を慎重に判断する傾向にあります。家庭内別居の状態だったとしても,「同じ家に住んでいた」ということが前提になります。そのため,裁判所としては,同じ家に住んでいたのだから破綻まではしていないだろう,という判断に至る可能性が高くなってしまうのです。
「喧嘩を頻繁にしていた」「仲が悪かった」と主張しても,「破綻」とまでは認められないケースが多いようです。
⑶「破綻」を認めてもらうためには
一般的に認められにくい婚姻関係の破綻ですが,絶対に認められないというものでもありません。裁判所に破綻を認めてもらうためには,破綻の根拠となる事実を適切に主張することが重要です。
具体的には,何年も別居をしていた場合や,離婚届にサインをして提出したが不備のため受理されなかった場合,等が考えられます。これらの事情があれば,破綻を認めてもらえる可能性はあるでしょう。
一方,離婚調停を申し立てたがその後取り下げた,という事情があった場合でも,「破綻」を認めなかった裁判例が存在します。そのため,「離婚について話し合いを進めていた」というだけでは,婚姻関係の破綻が認められない可能性はあるでしょう。
⑷慰謝料減額の根拠にはなり得る
既にお話ししてきたように,裁判では,「不貞行為の当時既に婚姻関係が破綻していた」との主張はなかなか認められません。破綻していたのであれば,保護されるべき利益が存在しない以上,不貞行為という客観的な事実が存在しても損害賠償額がゼロになってしまいます。そのため,裁判所としても破綻を認めにくいのでしょう。また,婚姻関係の内情は客観的に目には見えないため,第三者から見て「破綻」と認定することは困難だとの事情も存在します。
一方で,「破綻」と言い切ることが難しくても,「夫婦関係がうまくいっていなかったのだろう」と裁判所に思わせることができれば,慰謝料を減額する事情にはなり得ます。実際,夫婦関係について,「円満を欠いていた」「良好でなかった」「危機的状況であった」等と判示し,慰謝料の認容額を低額にするという裁判例は多数存在します。
ですから,婚姻関係が破綻しているとは言えないまでも,「夫婦仲は破綻寸前だった」と認められるような事実を提出することが大切なのです。先の家庭内別居の例でも,「寝室が別だった」とか,「家の中で会話もなければ顔を合わせることもなかった」等,不仲の根拠となる事実を示すことで慰謝料を低額に抑えることはできるかもしれません。
3.不貞行為と婚姻関係破綻の因果関係の否定
⑴「婚姻関係の破綻は別の原因」と主張する
次に,不貞行為後に婚姻関係が破綻したのは事実だが,破綻の原因は不貞行為ではない,と反論する方法も考えられます。
これは,不貞行為の時点では,婚姻関係の平穏という法律上保護された利益が存在したことは認めるが,不貞行為と婚姻関係の破綻との因果関係を争う,という反論です。たとえば,不貞後のDVが原因で婚姻関係が破綻したとか,別の人との不貞が原因で婚姻関係が破綻した,等の主張が考えられます。
⑵因果関係は否定されるか
因果関係の否定は,「不貞の時点で婚姻関係が破綻していた」との主張より認められにくいと考えられます。
確かに,不貞行為以外に婚姻関係を破綻させる他の原因があった可能性は十分に考えられます。しかし,「不貞行為」という貞操義務に違反する行為は,一般的に見て婚姻関係を破綻させることが明らかな行為であると考えられます。ですから,不貞行為後に婚姻関係が破綻している以上,両者に因果関係があることに疑いを差しはさむことは困難なのです。
4.婚姻関係が破綻していると信じていた場合
⑴故意・過失の否定
更に,実際に婚姻関係が破綻していなかったとしても,不貞相手から「離婚する予定だ」等と聞かされていたことから,婚姻関係が破綻していると信じていた,というケースも多いのではないでしょうか。
つまり,婚姻関係を破綻させるような侵害行為を行っていたことについて,故意も過失もないとの反論です。
⑵「過失」の否定は難しい!?
確かに,侵害行為を行ったことについて故意も過失も存在しなければ,損害賠償の責任を負うことはありません。婚姻関係の破綻について過失がないと言えるためには,「婚姻関係が破綻していると信じても仕方がなかった」と認められることが必要です。
既にお話しした通り,通常,婚姻関係の破綻の有無は外形的には分かりにくいものです。そのため,不貞をしている本人の口から「破綻している」とか「離婚することになった」等の発言を聞いて判断することが多いでしょう。ですが裁判所は,これらの主張に基づいて婚姻関係が破綻していると信じただけでは,過失がなかった,とは判断してくれない傾向にあります。そのため,過失の存在を否定することは困難と言わざるを得ません。
5.まとめ
慰謝料を請求された場合でも,「不貞の当時既に婚姻関係が破綻していた」と認められれば,慰謝料を支払う必要はありません。また,実際に破綻にまで至っていない場合であっても,夫婦仲が悪かったという証拠を裁判所に提出できれば,慰謝料を低額に抑えられる可能性は残されています。
慰謝料を請求されたがこちらにも言いたいことがある,減額できるのではないか,とお悩みの方は,是非一度弁護士にご相談ください。
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