離婚でお金のことで損をしたくない
離婚には多くのお金の問題が絡みます。この人とは一緒にやっていけないと決断し、できるだけはやく別れたいとの気持ちがある中で、お金の問題を後回しにしてしまう心情もよく理解できます。しかし、離婚で損をしないための勝負は準備段階で決まります。離婚後に損をしたとどのようなお金の問題があるのか、どんな証拠を別居前に揃えておかなければならないのかを把握して記録に残しておきましょう。このページでは、浮気・不倫で離婚をされたい方向けに損をしないための解説を致します。
1 離婚時に損をしないために知っておくべきこと
離婚のときには、法律上どのようなお金を請求できるのかを把握しておきましょう。
それぞれのお金を確保していくためには、財産分与、養育費・婚姻費用、慰謝料、年金分割、住宅、保険、退職金など大きな金額について証拠資料を準備しておかなければなりません。
弁護士会照会や文書送付嘱託など制度を使って一定の開示はできます。
しかし、これらの資料については別居前に揃えておくことで用意に入手できる資料も存在しますので、制度と揃えるべき資料を押さえておくことが大切となります。
2 財産分与
(1) 財産分与制度
財産分与とは、夫婦財産を清算する清算的財産分与、離婚後の生活費を支援してもらう扶養的財産分与、慰謝料や調整のための慰謝料的財産分与があります。特に大きな財産分与となるのは、夫婦共有財産を清算する清算的財産分与です。
清算的財産分与においては、寄与の割合の2分の1ルールは病院経営者など特殊な技能で高収入を得ている場合などでないと変わりません。
そこで、清算的財産分与の対象財産に漏れを作らないこと、きちんと評価をすることが損をしないために必要なこととなります。
(2)預貯金
預貯金の銀行名、支店名、口座番号を把握しておきましょう。
財産分与の対象となる預貯金は、夫婦共有財産であるため、婚姻開始時点の預貯金の残高と別居開始時の預貯金の残高を把握することが大切となります。
自宅内では、自宅内で保管されている場所を見て、写真を示すなどをするとよいでしょう。
ネットバンキングや信託銀行など生活費以外の預貯金は逃がしがちです。銀行から定期的に送付されてくるダイレクトメールなどを逃さないよう置いておくとよいでしょう。預貯金の通帳の履歴や可能であればメッセージ、メールの履歴を確認し、取引先、口座番号を把握しておくことができる場合があるでしょう。
銀行名、支店名、口座番号等を把握しておけばのちに調査できる場合あり
預貯金の口座を把握しておくことができれば、弁護士会照会、裁判所での調査嘱託、文書開示命令などを利用し、開示を行っていくことが考えられます。その預貯金が存在すること、一定の金額があることを把握していないと、探索的に裁判所は調査をしてくれません。同居のうち、預貯金の写真、取引先からの郵便物の写真、どの銀行にどれだけ預貯金を持っているのか、ネットバンキングを持っているのかを把握しておきましょう。
特有財産の主張について
双方にとって婚姻前からの所持している財産については、財産分与の対象となりません。
婚姻前からの預貯金の金額について、金融機関から取引明細書を取得するなどして確保しておくとよいでしょう。
婚姻後に取得した財産で、相続により取得した財産や贈与により個人に渡された財産については特有財産であると主張ができる場合があります。お金の流れとして、親族からのお金の流れを立証できるよう送金の履歴、親族の出金の履歴、受け取ったお金が流れを示せるように準備をしておくとよいでしょう。
子ども名義(第三者)の預貯金
子どもの預貯金については、お小遣いなどお子さん自身の財産といえない学資などの積み立てについては実質的にみて夫婦共有財産となる場合があります。
第三者名義の財産についてもその原資が夫婦共有の財産であれば、取り戻しを主張できるかもしれません。
確認できる預貯金についてはできる限り把握されておくほうがよいでしょう。
(3)不動産
対象となる不動産の価値、ローンを調べておく
不動産については、婚姻生活中に築いた財産であれば対象となりますので、自宅のみならず、投資用不動産の不動産登記簿謄本を確認しておくことが大切です。不動産登記簿謄本は地番などを把握し法務局で把握できます。また、固定資産税評価額(市町村で取得できます)、残ローンの通知書(ローン会社から定期的に送付されるケースが多いでしょう)を把握しておき、不動産が財産分与の対象となるかを調べておくとよいでしょう。不動産が処分される危険性がある場合には、処分禁止の仮処分などを取ることが考えられます。不動産は仮差押えをさえても影響が少ないこと、価値の担保ができることから価値を確保できるか、オーバーローンとなっていないかをよく確認しておくことが大切となります。
不動産の分け方を考えておく
不動産については、財産分与の対象となるのか、対象となるとして、売却して分割するのか、代償金を受け取るのかを選択するといったことを検討する必要があります。
売却して分与を受ける場合には、不動産の評価がいくらなのかを把握されることとなります。また、売却の時期により数百万円の大きな金額差となります。
また、不動産全体の分与を受ける場合には、代償金の支払いが必要となってきます。不動産の価値を把握し、代償金はいくら必要なのか、家族や特有財産などから援助を受けることは可能なのかを検討しておくこととなります。
不動産について住宅ローンの支払いを継続し、将来の財産分与を行うことを約し、それまではどちらか住み続けるといった選択を取ることもあり得るでしょう。
もっとも、住宅ローンの不払いが行った場合に、競売などの危険性があるため、履行の確保をすることなど条項を定めていくなど対策を立てておくことが大切となります。
(4)保険
保険については保険の解約返戻金が対象となりえます。婚姻前から入っているものも婚姻期間中に増加分が対象となることがありますので、保険証券、解約返戻金額の証明書を取得しておくとよいでしょう。預貯金の通帳の履歴からどの保険会社から引き落としをしているかを把握できることがあります。
年末調整や確定申告書で一定の保険を把握することができる場合がありますので、会社名、保険証券番号を記録しておくことでのちに調査や任意提出を求めやすいことがあり得ます。
(5)退職金・企業年金
会社に退職金があるのかを把握しておくことも大切です。長期間の勤務となっている場合には退職金は大きな金額となります。就業規則、退職金規定が配布されている会社であれば、写真などでページを保全しておくとよいでしょう。もっとも、離婚前に配偶者に秘密にして退職金の予定額証明書を会社に出してもらうことは難しい部分があります。
給与明細書などにより所属会社、部門を確認し、調停段階での任意の提出をしない場合には、会社に照会を行うといった流れをたどることもあり得るでしょう。給与明細書などに企業年金の記載がある場合やパンフレットをもらっている場合があります。どのような企業年金に入っているかも把握しておくことが大切です。
(6)自動車・動産
自動車・動産 自動車については、自動車内にある自動車車検証等の写しをカメラなどで保全しておきましょう。自動車ローンのハガキや残ローンの金額を把握しておくと財産分与の対象となりえるかを把握しやすいこととなります。
動産のすべてについて把握することは難しいですが、テレビ、エアコン、パソコン、電子レンジ、冷蔵庫、掃除機など価値がある動産や利用性が高い動産については本体や取扱説明書などから機種名を把握しておくが考えられます。
別居時に動産を持ち出すこと自体はありえる手段ではありますが、感情的な対立を招く危険性があります。別居の断行日を決め、業者を手配して、一定の持ち物を移動させる場合も、相手方の特有財産を持ち出さないようにするなど、注意は必要です。
原則としては、別居を決めた時点で話し合いを行い、持ち出すことを明示して、持ち出すといった方がよいこととなるでしょう。
(7)株式
株式・有価証券については、婚姻期間中に築いた財産にあたる場合には、対象財産となります。株式・有価証券についてはネット証券などとなっているため、把握が難しいことがあり得ます。そのため、別居前にネット証券からのメールやどのようなものを持っているのかについて把握しておくとよいでしょう。
3 養育費・婚姻費用
(1)養育費・婚姻費用の制度について
養育費は、未成熟の子どものためのお金であり、親権を取得する場合には子ども養育のための大切なお金となります。
婚姻費用ついては、別居をしていたとしても夫婦婚姻生活が継続する限りで支払わなければならないお金です。
いずれにしても請求時から未払いが起算されることがほとんどですので、手続きを開始すると同時に調停申立てを行うなど対応をしていくことが大切です。
(2)養育費・婚姻費用の算定のために必要な資料について
養育費婚姻費用算定表により算定することができます。家庭裁判所に算定表がありますので、権利者、義務者のそれぞれの収入を把握できるよう必要な資料を別居前に確保しておきましょう。
① 給与所得者の場合
給与所得者の場合には、給与明細書、源泉徴収票の「支払金額」、課税証明書の「給与の収入金額」を参考としますので、これらの資料を集めておくとよいでしょ。離婚直前となると残業代などを減らすなど対策されることがあり得ます。また、他の収入を得ている場合があることはありますので、預貯金の確認などお金の流れを把握しておきましょう。
② 自営業者の場合
自営業者の場合には、確定申告書の「課税される所得金額」を基準とされます。確定申告書、収支内訳書、帳簿データがあるとよりよいでしょう。税法上、控除された金額のうち、現実に控除されていない費用を控除する必要があります。
特に、自営業者は課税を低くするために、経費での調整をしていることがあり得ますので、どこまで主張できるのかを弁護士と打ち合わせしておくとよいでしょう。
(3)養育費については将来の履行確保を
養育費については、将来にわたって支払っていくものとなります。
一括支払で合意を行うこともありますが、多額の金額となるため離婚時に全額を受け取ることが難しいでしょう。
そこで、分割支払いとなりますが、継続的に支払いが確保されるか不安定な部分があります。合意においては、調停条項や強制執行認諾文言付の公正証書を作成し、未払いの場合に備えて強制執行ができるように準備をしておきましょう。
相手方の預貯金の通帳や就業先をきちんと把握しておくことも大切です。
未払いが発生した場合には、弁護士を通じて早期に回収を図れる体制を準備しておきましょう。
4 慰謝料
離婚原因に不法行為があった場合には、不法行為に基づく損害賠償請求を行うことができます。不法行為に基づく請求の立証責任については、請求する側が負うことになっていますので、不貞行為、暴力、虐待、モラルハラスメントなどについては証拠を揃えておくことが必要となります。
不貞行為の証拠(写真、動画、LINEやSNSのメッセージのやり取り、ホテルの領収書、クレジットカードの履歴、探偵事務所の調査報告書、不貞行為を自白する旨の録音)、暴力・虐待(負傷部位の写真、診断書)、モラルハラスメント(発言の録音、日記)等について証拠を準備しておきましょう。
また、損害の程度について、うつ病、統合失調症などが発生している場合には、医師の診断書や診療報酬明細書、領収書などを用意しておきましょう。
5 年金分割
年金分割制度は、厚生年金保険等の被用者年金に係る報酬比例部分の年金額の算定の基礎となる標準報酬等について分割割合を定め、その定めに基づいて標準報酬等の改定・決定を行う制度となります。
年金分割の対象は、被用者年金のみであり、当事者の別段の合意でない限りは、2分の1の割合が認定されることが多いでしょう。年金分割のための情報通知書を、年金事務所、各共済組合に請求して入手しておくことが必要です。
6 仮差押・保全措置について
仮差押などは、離婚まで待っている場合には、配偶者が財産を流出させてします危険性がある場合には、調停前や訴訟提起前に財産を仮差押することで財産の処分を防止する措置です。
仮差押えを行うためには対象財産、①預貯金、②保険、③不動産、④自動車などを把握できる資料、財産分与請求権、慰謝料請求権の疎明や財産隠匿の危険性があることなど保全の必要性を疎明しておくことが必要となります。
また、仮差押えの際には、財産の1割~3割の担保金が求められる場合があります。離婚事件では低額に設定されることが多いものの数十万円程度は必要となってくるでしょう。担保金については、損害が発生しなければ後日返還されますが、一定のお金を用意し、仮差押をすべきものを限定して選ぶことが大切となります。
7 まとめ
離婚をするにあたりお金で損をしないためには、預貯金、不動産、退職金、株式、自動車などの財産的価値があるものについて証拠資料を準備しておくことが大切です。別居をした後では入手が困難となってしまう資料や隠されてしまう資料もあり得ます。弁護士会照会や裁判所の文書送付嘱託などの手段も存在しますが、存在が把握できていない資料までを探索的に調査を行うことが難しい側面があります。浮気・不倫を理由に離婚をする場合には、弁護士に相談、依頼を行い、きちんとした準備をしておきましょう。離婚紛争については、損をしないためには、弁護士に依頼をされておくとよいでしょう。天王寺総合法律事務所では、離婚問題に取り組む弁護士が所属しておりますので、離婚紛争のご依頼をされたい方はぜひお気軽にお問い合わせください。